こだわりの商品を作る物語 伝統を継ぐ物語

筑前秋月和紙処

一度は途絶えた秋月の和紙漉きを復活させ、受継ぐ
朝倉市秋月の井上さん親子。

筑前秋月和紙処

秋月藩(現・福岡県朝倉市)で伝統的な手漉きの和紙を作りつづける筑前秋月和紙処。
秋月和紙を手漉きで作る工房が全てたたまれ途絶えた時期もありましたが、再び三代目の井上恭臣さんが工房を復活をさせ、四代目の賢治さんと共に秋月和紙を存続させています。

福岡県朝倉市秋月の和紙は戦国末期より歴史に登場します。
一時期は和紙処が20軒あった秋月も、時代が変わるにつれ営むことが厳しくなり、和紙を漉く工房は減っていきました。
明治9年創業の井上さんの工房も、三代目の恭臣さんの時代に工房を閉めることを考えます。

三代目:恭臣さん:
「うちが畳んだら、はす向かいの紙漉き屋も『辞める』って。
 当時、秋月で和紙を漉く処が1軒もなくなった。」

四代目:賢治さん:
「親父が八女とかいろんな所から機械をかき集めてきて、また再興させたんです。」

恭臣さん:
「周り(元同業者)からは『やめとけ!』って云われたけど、ちょうど秋月が観光事業に力を入れることになったんよ。
そしたら、みんな秋月に帰ってくるやろ?
そん時に1軒も和紙屋がなくなってたら寂しかろうと。」

筑前秋月和紙処
和紙の原料となる楮(こうぞ)を煮て漂白します。

筑前秋月和紙処
楮は繊維が長く強いので、この機械で繊維を断ち切って細かくします。

筑前秋月和紙処
細かく切断されてトロトロになった楮。

寒い冬の方が、和紙を漉くのに向いています。
冬だけ紙漉をする人もいるくらい差があるそうです。

賢治さん:
「冬に紙を漉くと原料が悪くならない。
 夏に紙を漉くとカビが生える恐れがあり、変質していくんです。
 去年みたいな猛暑だとテキ面です。」

暑さだけでなく、毎日の湿度や温度の変化も気にして1年を通して同じ品質の紙を漉きあげるのには、やはり高い技術が必要です。

恭臣さん:
「サイズが大きくなればなるほど難しいし、力もすごく必要になる。
一番大きいのは、もう息子に任せて私は今はやっていない。
何回も何回も失敗して、経験から学ぶしかないと思っているから、息子にもどんどん失敗を繰返してもらっている。
私も未だに失敗して学んでいるくらいだからね(笑)」

筑前秋月和紙処
細かくなった楮を糊を混ぜた水槽にほぐしながら入れます。

筑前秋月和紙処
足の出た板を何往復もさせ、楮と糊と水をかき混ぜます。

賢治さん:
「別に水だけでも和紙は出来るんです。でも水だと(楮が)すぐ沈殿するので。
 万遍なく楮の濃度を均一にするために糊(ノリ)を足すんです。」

紙を均一の厚さで漉くためには混ぜるところから神経を使います。
そして、漉く時にはリズミカルに揺らしながら、薄く均一に漉いていくのです。

恭臣さん:「リズムや加減は、経験を積んで覚えて行くしかない。」

また、紙漉の仕事は水に手を浸ける作業が多いので、指紋が消えてしまうこともよくあるそうです。

恭臣さん:
「指紋は1週間くらいでもどるけど、無い時はモノが掴めんよ。ツルツル滑って。
夏は漉く作業、冬は乾燥する作業がいい。って言うくらい、冬は水仕事厳しかよ?(笑)」

筑前秋月和紙処

筑前秋月和紙処

手漉きの和紙と機械で作った和紙は「見たらわかる」という恭臣さん。
また、白く綺麗な紙以外にも、地場産の葛の葉をはじめいろんな物を和紙に混ぜたり、色をつけて漉いた風合いを楽しむ和紙も秋月和紙処では作っています。
書道家にも愛用されてる方が多い秋月和紙。
筆で書いて、絶妙な滲みや擦れがでる和紙にするために古紙を楮に混ぜて作る場合もあります。

恭臣さん:
「和紙は、触ってみて、使ってみて、使いこなさんと本当の良さはわからんよ。
 絵を描いてみたらええ。」

使えば使うほど、和紙に触れれば触れるほど、良い和紙がどんなものかわかるそうです。
柔らかい和紙、固い和紙、さらっとした和紙、色々な物が混じった和紙‥‥
種類も豊富なので、自分好みの和紙を見つけるのも1つの楽しみです。

筑前秋月和紙処
古紙は一度煮て不純物を取り除き、叩いてペースト状にします。

現在は鋭い刃でミキサーのように細かくしている楮も、昔は叩いて細かくしていたそうです。

賢治さん:
「昔は仕事の流れもゆるやかだったんでしょうね。今の時代は何でも早いですから。」

恭臣さんは、仕事で大事なのは「段取り」だと言いました。
煮てる間、粉砕してる間、待つ作業も多い紙漉の仕事ですが「段取りをちゃんと頭に入れていないと上手くいかない」と。

恭臣さん:
「私はね、目が見えないんよ。アンタの顔も全然見えてない(笑)」

取材の最後の方でそう教えてくれた恭臣さん。
工房内での作業と移動はとてもスムーズで、全くそれを感じさせない動きだったのでとても驚きました。

筑前秋月和紙処
刃の説明をしてくれる恭臣さん。「怪我? するよ(笑)」

恭臣さん
「(和紙を)再会しようと思った時は見えてたよ。そっからどんどん悪くなって。
ある日、免許更新に行ったら、大型持っとったんやけど。
『大型はもう無理です。普通なら…』って言われたんよ。
『じゃぁ、酒飲みたいから免許いらん』って(笑)」

見えていなくても、長年の経験で工房内のことは全てわかっているそうです。

恭臣さん「18歳からこの仕事しとるからね。」

賢治さん「僕にはとても真似できません‥」

筑前秋月和紙処

四代目の賢治さんも、はじめは違う仕事に就いていました。

賢治さん:
「新聞の営業をしていました。
 元々、新聞配達の奨学生で、そこの会社に入ったんです。
 その時は思ってなかったですし、和紙とは違うんですけど『紙の仕事に縁があるな』って(笑)」

井上さんのお店では、和紙漉き体験なども行っています。
また、秋月の三大特産品「葛」「川茸(川海苔)」のお店と組んで、地域活性の活動もされています。
また、秋月藩や黒田勘兵衛の影響から歴史が好きな人もよく観光にこられるそう。
井上さんも歴史に非常に詳しく、お店には歴史書が何冊も並んでいました。


筑前秋月和紙処
福岡県朝倉市秋月424-2(MAPあり)
TEL 0946-25-0517
OPEN:10:00~17:00(火曜定休)

About the author

チクチック

地域・地方の魅力は、そこで暮らし営む「ひと」の魅力だと思います。
その魅力は日本中、世界中にありますが、まずは自分たちが暮らす福岡県ちくご地方に目を向けました。
そして、市町村単位ではなく、自分たちが日常的に気軽に行動できる、例えば車で1~2時間で移動出来るような、もっと感覚的に大きなエリア。
「自分の地元」と言えるようなエリアを自らの足を使って取材する形で発信しています。

地域の読みものとしてのWEBマガジン「チクチック」を担当している
オガワが取材に行ったり、イベントで見たり、お店で聞いたことを記事として書き留めてます。