こだわりの商品を作る物語, 伝統を継ぐ物語

内野樟脳

日本に樟脳の製法が伝わった400年余前から、基本原理は変わっていない「水蒸気蒸留法」。
現在、その基本の上に様々な工夫が加えられて生みだされた製法を受継ぐ、福岡県みやま市にある内野樟脳。
効率化より品質保持を優先し造られる天然の樟脳です。
天然樟脳
福岡県みやま市にある内野樟脳の工場を訪ねるとき、遠くからでも場所がわかります。
入口には、九州中(ほとんど福岡ですが)から集められた樟(クスノキ)の大木がゴロゴロと積まれ、清涼感あふれるメントールの香りが辺り一帯に漂っていました。
「樟脳」という言葉は知っていても、その存在を知らない人も多くなってる現代。
化学物質で出来てる色んな防虫剤が市場の大半を占めている中で、頑なに昔からの製造方法を守り、樟と水だけを原料にして樟脳を作り続けてる内野和代さん。
元々、福岡市内の設計事務所で事務をしていた内野さんは、旦那さんが家業を継ぐ事を決めた際に瀬高(現・みやま市)に引っ越してきて樟脳製造を手伝いだしました。
内野和代さん「樟脳製造を全く知らなかったから、やれたんでしょうね(笑)」
代々、工場で使っていたり、よそから譲り受けたりで80年以上使っている器具ばかり。
それゆえ、使う人の感覚や技術が製造に如実に反映してしまいます。
天候や気温によって変える火加減に教科書やマニュアルは存在しません。すべて五感で覚えるしかないのだそう。樟脳製造にたずさわって30年余り、内野さんが「感がつかめてきた」と思えたのは、旦那さんが亡くなられ五代目を継いだあたりからだと云います。
内野さん
「全部を自分が把握してないことには出来ないから。
 はまってするようになってからですね。
 30年くらいやってて、ホントにここ何年かですよ。」

内野樟脳
天然樟脳の製造工程
樟(クスノキ)の原木をチップにする
刃が12ヶ付いた円盤型のカッターに、樟を押当ててチップを造ります。
木の目に添って、強すぎず弱すぎずの力加減で、木の節などに気をつけながら刃に押当てます。
無理にすると、木片が跳ね返りケガする危険がありますし、刃も悪くなってしまうからです。
単純な作業のように見えますが、木片は一つ一つ違います。
木の癖を把握し、集中し続けて力加減をみないといけません。
昔は、慌ててやって手を落とした職人さんも多かったほど危険な作業なのです。
現在は、1年ほど前から内野樟脳を手伝っている檀さんが、この行程を任されています。

戦前から80年以上使われている円盤形カッター。これ以前は、木の板に刃だけついたものでした。
さらに、それ以前の初代の時代は手斧で木を削ってチップを造っていたそうです。
使う度にメンテナンスはきっちりと行います。
永く使われる器具は、それだけ大事に使われてきたということ。
モーターを動かす前に、裏側の刃を留めているネジを一つ一つ確認しながらしっかりしめ直す檀さん。
天然樟脳
チップを蒸留する
出来たチップはかき集められて、ベルトコンベアーで2階へ運ばれ、そのまま甑(こしき)の中へ入っていきます。
樟脳成分である蒸気を逃さないよう甑(こしき)の蓋をしっかりネジで閉めます。
甑の下部には水を入れる釜が組み合わされていて、毎回、蒸留時に減った分だけ水を補います。
甑は圧力釜のような仕組みになっていて内部の温度は100℃以上にもなります。

竈(かまど)に火を入れ、樟脳成分を蒸留します。
丸一日(9〜10時間)蒸し続け、甑の蓋を開け、そのまま一晩置いておきます。
翌朝、新しいチップと取り替えます。
蒸し終わったチップを1階の取り出し口からかき出し、ベルトコンベアーで2階に運びます。
この作業を3回(3日間)繰返します。
甑(こしき)から出たばかりのチップからは湯気が出て、樟のメンソールのような香りがまだ残っています。
内野樟脳
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蒸し終わったチップは、乾かした後上から釜に落とし入れて燃料として再利用します。
燃焼具合に応じて、チップを随時追加していきます。
その日の状態に合わせて調節が必要な火加減は機械では難しいそうです。
機械ですると、オイルの色も結晶も全てが変わってしまう と、内野さんは言います。
檀さん「ご飯を炊くのと一緒です」
炊飯器で炊いた米とお釜で炊いた米の味が違うように、薪でおこす火で出来る樟脳は機械で造るモノとは全然違うモノになります。
もちろん、その火加減を見極める職人の技術があってこそですが。
内野さん「火力が強すぎても香りが若干変わるから」
「強すぎても、弱すぎてもダメ。」全ての行程で内野さんが口にする言葉です。
内野樟脳
3日間、冷却層の上蓋に地下水を流し続け、甑(こしき)から発生する蒸気を冷やします。
だから、樟脳造りには水は欠かせないのです。
みやま市で樟脳造りが盛んだったのも、豊富な水源に恵まれていたのが理由の一つです。
天然樟脳
流水で冷やされた蒸気は、ここで樟脳と樟脳油に分離されます。
蓋を開けると、板で仕切られた冷却層の中に淡いクリーム色した樟脳の結晶が氷のように浮かんでいます。
天然樟脳
樟脳の結晶をザルですくいあげます。
分離した琥珀色の液体が樟脳油と呼ばれ、この搾っていない状態の一番オイルは「樟脳アロマオイル」になります。
結晶はすくいあげた直後、まだオイルを吸って黄色味を帯びてますが、徐々にオイルが下に落ちて真っ白に変わります。
この結晶を圧搾機に運びます。
天然樟脳
朝、麻網を敷きつめた圧搾機に樟脳の結晶を入れて夕方まで置いておき、一晩かけて圧搾します。
圧搾機は「玉絞め式」と呼ばれるもので上から重しをセットして使います。
専売公社から譲り受けたこの器械も、80年以上使われているモノだそうです。
もちろん、この麻網も。

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【関連する記事】
内野樟脳の物語 その2
内野樟脳の道具の物語


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天然樟脳
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